パラダイムシフトの時代
私が長年携わっているIT業界では、数十年ごとにパラダイムシフトが起きていています。
メインフレームからクライアント・サーバー、そしてクラウドコンピューティングです。
私は、クラウドコンビューテイングの黎明期からそれを牽引するベンダーの立場でパラダイム・シフトを経験しました。
パラダイムシフトとは、何でしょう。
パラダイム・シフトとは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいいます。
分かりやすく説明すると、私達がイモムシになったと想像してください。
今まで葉っぱの上をモソモソ生活していたミドリムシから、突然空を自由に舞うチョウチョになるくらいの世界の変化なのです。
ITの業界でそのような経験をした私からみると、ホテルの姿は数百年前からその形は大きく変化していないように感じられます。
いわゆるパラダイムシフトというものは未だ経験していません。
みなさんは、ホテルというとどのようなイメージを持たれますか?
ドアマンのいる出入り口、
広いロビー、
フロントやコンシェルジュデスク、
レストラン、
宴会場、
ショップ、
そして、一つの建物の中に、数百室の客室がまとめられ、多くのスタッフが、お客様のお世話をする役割分担し、対応しています。
この姿は、数百年前(日本ではホテルができた明治以後)から変わっていません。
世界を旅する旅行者にとっては、ブランドが同じホテルでありば、世界中のどこでも、安定したサービスを受けることができる安心感があります。
反面、ホテル内では、東京、パリ、香港に旅行をしていたとしても、大きな違いはありません。
スタッフによる心のこもったサービスを受けることで心地よく過ごせることも多いことも事実です。
しかし、現在は、個人の多様なニーズに対応することと、また人との距離を取る安全性も、求められています。
当然、今のホテル業界でも、そのような問題の解決に向けて取り組みは行われています。
ホテルの概念が変わる
同じブランドのホテルでも、地域ごとにカスタマイズされ、その地域地域の雰囲気を味わっていただけるようにデザインされています。
スマートチェックインなど非接触なサービスも導入されています。
ただしそのような取り組みも、既存のパラダイムのもとでは限界があります。
IT業界のパラダイム・シフトでは、ベースとなるコンビューティングのアーキテクチャは、集中化(メインフレーム)→分散化(クラサバ)→集中化(クラウド)と、集中と分散を繰り返しています。
集中化から分散化というパラダイムシフトは、IT業界のみならず社会全体に起きています。
ホテルの分野においても、多様なニーズに合わせたパラダイムシフトが起きていると考えています。
つまり、イモムシからサナギ、蝶のように、一つの建物に集約された集中型から、分散化へのパラダイムシフトにより、ホテルの形態が劇的に変わることになります。
現在のテクノロジーやネットワーク環境を活用すれば、街の中にあるホテルは、一か所に集中している理由はありません。
フロントなどの機能や、レストランなどもホテルが用意する必要はないかもしれません。
各部屋は街の中に分散されるのです。
ある部屋(101号室)は、海沿いの一軒家、ある部屋(102号室)は山側の一軒家、またある部屋(301号室)は繁華街のビルの3階となるわけです。
しかし部屋にひとたび入れば、そこはホテルブランドの快適性や高いセキュリティが保証されます。
そして何よりもそこが自宅であるかのようにリラックスをして、自由に過ごせるのです。
誰にも会うことなくスムーズにチェックインとチェックアウトができ、食事は好きな時に街の中にあるレストランから自由に選択する。
ルームサービスを頼むように、フードデリバリーにより部屋での食事、また設備の揃ったキッチンにシェフを呼ぶこともできます。
ゲストサポートやコンシェルジュサービスは、対面である必要はありません。
また、ホテルの中だけではなく街の中にいても、常にオンラインでゲストのそばにいるわけです。
次世代のラグジュアリーホテル
次世代のラグジュアリーホテルでは、
自前のレストランなどのサービスをなくし、部屋の設備は宿泊ではなく、暮らすための設備(キッチンや生活用品)を充実させます。
非接触でありながら滞在期間中いつでもどこでも迅速にオンラインでサービスを提供する「スマートラグジュアリーホテル」へと変わります。
ホテル宿泊は、滞在というよりも街の中に暮らす体験となり、オンラインサポートを受けながら街全体を自由に楽しむことができます。
そしてひとたび部屋に戻れば、どのような地域であっても、快適性が整ったシェルターの中で暮らすことができる、「スマートラグジュアリーステイ」となります。
ちょうど自然の中に生活するグランピング体験にも似ているのではないでしょうか。快適性を損なうことなく、その街に暮らす体験です。
インフラが整っていない地域であっても、自家発電や浄水設備でカバーすることにより安定したライフラインを提供し、インテリア、設備、そしてセキュリティにいたるまで確保されます。
別の見方をすると今までのホテルは、いわばパッケージされた団体旅行、安心感はあるが、自由度は低く、訪れた街を感じる部分は限られています。
一方「スマートラグジュアリーステイ」は、安心感や十分なバックサポートを受けながらも街の中を自由に楽しめる単独旅行というわけです。
このようなパラダイムシフトに向けて、いち早く「スマートラグジュアリーホテル」の姿と 「スマートラグジュアリーステイ」という体験を紹介していきたいと考えています。